Peoneyboy

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仕事のあとはいつもの店で乾杯を

1

 いつも誘うのはリーブの方からだった。今回も、頼んでいた調査完了の報告をヴィンセントから受けたあと、リーブの方から飲みに誘ったのだった、「近くの街に新しくダイニングバーができたらしいのです。秘書から聞きまして。気になるのですがこの後一緒にいかがですか?」と。
 カオスを巡る戦いの後、ヴィンセントは世界再生機構――通称WRO――の契約隊員として元タークスの戦闘能力を活かし諜報活動を行っていた。もちろん、ヴィンセントにはWROの契約隊員になる気などなかったが、リーブに依頼された事柄を調査し、報告しに戻りこの後食事にでもとか飲みにでもと誘われるうちに、WROの依頼をこなすことがヴィンセントの生活におけるルーティーンになっており――あれは何回目のリーブとの食事だったのだろうか。リーブはWRO近くの街にある小洒落たレストランでウェイターに二人分の食事の注文をした後、鞄から一枚の書類を取り出した。WRO契約隊員の契約書類だった。
「私から依頼を受けたときだけ動けばいい。何か引き受けられない事情があるときは断ってくれて構いません。まあ、何か手伝って欲しいときに連絡をしますので、貴方の都合が良ければ引き受け、働いただけの報酬を払います。正規隊員に比べ貰える給料はもちろん少なくなりますが。どうでしょう」
「……リーブ。お前はなぜ私にこの書類にサインして欲しいと思うのだ? 契約を交わさなくとて、これからもお前の頼みくらい聞いてやる」
「いえ、貴方に正規隊員並に働かせてしまっているのに何も報酬を払わないというのは……いくら友人だからといってもそこのところはしっかりしませんと。いえ、寧ろ友人だからこそ貴方の好意に甘えているままなのは良くないかと」
「友人」
 ヴィンセントは小さく呟いた。
「ええ、そうです。私達は友人でしょう。もしかして、そう思っていたのは私の方だけでしたか?」
 ヴィンセントはリーブと今日のように二人で一緒の時間を過ごすのは何回目かと考えた。二、三秒程考えて、「ああ、私もお前のことを友人だと思っているよ。お前がそうやって気を使ってしまうというのなら、私がWROの契約隊員になった方が良いな。それに、君の言うことにも一理ある」
 書類を受け取るために手を差し伸ばし、リーブから契約書類とペンを受け取る。ヴィンセントは契約書類の項目を埋めるためにペンを動かしながら、「住所は空欄で良いか」と訊いた。
「ええ。WROの社宅を一室貴方に貸し出します。その部屋の住所はこちらで記入しますので空欄で大丈夫です。ヴィンセント、今回はいつまでこちらに滞在しますか? 貴方に貸出す部屋の鍵を渡しておかなければと思いまして」
「何から何まで至れり尽くせりだな。わかった。今回は一週間程滞在する予定だ」
 ヴィンセントは書き終えた書類をリーブに手渡した。
「ところで、これからお前は私の上司ということになるが、局長と呼んだ方がいいのか?」
 リーブは笑いながら、いえ、今まで通りリーブと呼んでいただけると私は嬉しいです、と応えた。

 リーブの秘書おすすめのダイニングバーは壁がコンクリートでできており、木材の椅子とテーブル、壁には絵の具を垂らしたようなモダンな絵が飾ってあった。一言でいうならば、若者向きのお洒落な店だ。店主曰く、今様々な人気店の設計を手掛けている建築家に外装から内装まで全て設計を依頼したらしい。
 リーブはカウンターに並んで座るヴィンセントのことを眺めた。ヴィンセントは一言でいうならばとても美しい男だ。リーブはそう思っている。滑らかな肌、ガーネットのような瞳、濡れ羽色の髪――濡れ羽色、あの人と同じ色だ。
「貴方の髪を見ていると妻のことを思い出します」
  リーブは呟いた。あまり、人に話したことのないことだった。きっと酔っているせいだ。
「妻!?」
 ヴィンセントは驚いた声を出した。
「ええ。まあ、私と彼女が夫婦の関係だったのは三年程でしたけど」
 リーブはヴィンセントの驚いた反応に気を良くしながら言った。彼がこんなに驚くのは珍しい。
「私が神羅カンパニーの都市開発部門でエンジニアとして働いていた頃、同じく都市開発部門の設計部で働いていた彼女と仲良くなりまして。とても気が合いました。彼女は私の考えていることがわかったし、私の方も彼女考えることは手に取るようにわかった」
「……」
「まあ、だからこそ別れてしまったのですけどね。彼女も私も仕事が第一でした。私はこんな夫婦生活で結婚している意味があるのかと考えてしまって。彼女には口に出して言いませんでしたが、彼女は私がそう考えていることを知っていました。私の方も、彼女が私がこう感じてしまっているなら、結婚関係を続けない方が良いと考えているのがわかりました。それで私の方から別れを切り出したのです」
「……」
 ヴィンセントはなんと返答するべきか思案しているようだった。リーブはふと左腕にした腕時計に目をやり、「もうこんな時間ですね。すみませんが、私は明日も仕事でして。今日はお開きにしましょうか」と言った。
「わかった。リーブ、私は明日ここを発つ。今回はジュノンを経由してウータイの方まで行くつもりだ。もし、何か頼み事があるなら……」「わかっています。急を要するようなことは依頼しないようにしますよ」リーブはヴィンセントの言葉を遮って言った。そして、微笑みながら、また次に貴方と食事するのを楽しみにしていますよ、と言った。

2

 結論からいうとヴィンセントはウータイまで辿りつかなかった。悪天候で運搬船が出港できず、嵐が去るのをジュノンで待ち続けること三日目の朝、ヴィンセントは携帯電話がメールを受信したことを知らせる振動で目が覚めた。
 メールはリーブからだった。先日の食事に付き合ってくれたことへの礼を述べたあと、今はどこにいるか、ということを尋ねる内容で、ヴィンセントは今は嵐で船が出ないためジュノンに滞在しており、運行再開し次第隣の大陸へ渡るつもりだ、といったことを打ち込み送信した。返事はすぐに返ってきた。それなら頼みがあるのです、WRO本部に新しく作るリラクゼーションエリアの設計を依頼した建築士がジュノンから本部へ打ち合わせにやってくる予定なので、護衛をしながら本部まで彼女を連れてきてくれないか、と。ヴィンセントは了承する旨のメッセージを送った。
 リーブからのメールを受けた日には嵐は過ぎ去っており、ヴィンセントはリーブからの指示通り建築士を待ち合わせ場所まで迎えに行き、彼女と一緒にWRO本部近くまで行く運搬船に乗船した。
 建築士の名前は、レベッカ・ブランといい、歳は諸々の事情があって実年齢よりかなり若い外見をしたヴィンセントよりは若干上に見える、黒髪の女性だった。彼女はリーブからの交渉で今回の件を引き受けたらしい。「あまり乗り気じゃなかったけれど……提示された報酬が良くて。WROの女性隊員達が是非とも私に設計して欲しいと言っているらしいっていうのも聞いて引き受けることにしたの」と彼女は言った。
 建築士とヴィンセントの二人旅は運搬船を降りるところまで順調だった。船着場でレンタカーを借り――もちろんかかった費用はあとでリーブに請求するので、領収書は忘れずに取っておく――後部座席のドアを開け、建築士に車に乗るよう手で示す。彼女は小さくお辞儀をし車に乗り込んだ。ヴィンセントも彼女が運転席の真後ろの席に座りシートベルトを装着したのを確認したあと同様に車に乗り込んだ。
 道中に会話はなかった。ヴィンセントは無口な方だったので自分から話しかけようとはしなかったし、彼女は車の窓から見える景色を楽しむのに夢中だったからだ。無言で車を走らせる中、船着場を出発し二キロメートル程街道を進んだところでヴィンセントはサイドミラーに映りこんだ異変に気がついた。通常、街道付近ではモンスターにはほとんど遭遇せず、遭遇したとしてもせいぜい二、三匹だ。それにも関わらず、サイドミラーには鳥型モンスターと思われる影がぱっと見ただけでも五匹、いや、片方のサイドミラーに五匹、もう片方のミラーに五匹――計十匹捉えたのだ。
「車から決して出ないで」
 ヴィンセントは車を停止させ、真後ろに座る建築士に普段と変わらない落ち着いた口調で言った。言いながら銃――ケルベロスの弾を確認し、さらに装備しているマテリアを確認した。連結穴に高レベルのファイアとぜんたいかマテリアが組み込まれている。
 ヴィンセントは敵から目線を外さないようにしながら、運転席から素早く降り、車の影に隠れるように位置取った。集中。ファイア系魔法の中で最高火力が出るファイガをお見舞いする。ヴィンセントから見て右側の群れにぜんたいかファイアが命中したのを確認し――すかさず詠唱に入る。今度は左側。
 そして、ヴィンセントは立ち上がり、モンスターの群れに近づいた。三発の銃声。まだ息のあるモンスターにケルベロスでとどめを刺す。
 わずか一分と少しの間の出来事だった。
「街道でモンスターの群れに遭遇するなんてついていないわ。貴方が居てくれて助かった」
 運転席に再び乗り込んだヴィンセントに建築士は言った。
「ああ。ここは片付いたので出発します」
「先程のモンスター、フォーミュラに見受けられたけれども。ジュノンから離れたここにも生息するようになったのね」
 建築士は呟いた。
「……」
 ヴィンセントは建築士の呟きを聞きながら、何かの前触れでなければいいが、と思いつつ車を発進させた。

3

 ヴィンセントは目の前に座る女性に気づかれないよう小さくため息をついた。
「私と食事をするのはそんなにお嫌?」
 どうやら気づかれていたようだ。
 数時間前。ヴィンセントは建築士をWRO本部に送り届け、いつものようにリーブに任務完了の報告をしに行こうとした。ヴィンセントがいつも任務終了後に本部に来たときは、決まってその夜に局長と連れ立って街に行くのはWRO隊員の中で周知の事実であったため、建築士を案内しようとしていた隊員――リーブの秘書の内の一人だった――は親切心から言った。
「局長は今日はお休みなのです。今日から三連休を取っておりまして」
「三連休?」
 ヴィンセントがWRO本部に来る日程とリーブの休みが重なるのは初めてのことだった。いつものようにリーブに誘われ、リーブの勤務終了後に近くの街の食事処か若しくは飲み屋に行くつもりであったから、ヴィンセントは少しがっかりした。もちろん、態度には表さないが。
 ヴィンセントは自分でも今まで気がついていなかったが、リーブと共に過ごす時間のことをとても気に入っていたらしい。こんなことはかつてセフィロスを追ってクラウド達と旅をしていたときにも思わなかった。誰かと一緒に過ごしたいと思うのは――タークスとして神羅の美しい科学者の護衛をしたとき以来かもしれない。
 そんなことを考えながら、WRO近くの街にあるヴィンセントの部屋――リーブがヴィンセントのために提供したWRO隊員のための社宅である――に向かって食事処や飲み屋が建ち並ぶ街の繁華街を歩いていると背後から声をかけられた。
「護衛さんじゃない。昼間はどうもありがとう。貴方は家に帰る途中かしら?」
「……ああ」
 昼間護衛した建築士だった。こんな場所で声をかけられるとは、とても面倒くさいことになりそうだ。名前はなんといったか。
「レベッカよ、レベッカ。ジュノンを出発するときに自己紹介したはず」
 彼女はヴィンセントの考えていることを読みったのかそう言った。
「今回の件を引き受ける前にこの街にあるお店の設計をしたの。WRO本部にリラクゼーションエリアを設置する件の担当の人がそのお店の内装と外装の両方をとても気に入って、そのお店の設計を担当した人に設計をどうしても頼みたい、ってなったらしいの。で、調べてみたらかつて私が神羅カンパニーの都市開発部門に所属していたことを知り、それでリーブに私と交渉して貰えないか頼みこみ、結果私が今回の件を引き受けることになった。その私が設計したお店。このあと特に予定がないなら一緒に行かないかしら?」
「リーブ」
 ヴィンセントは言った。普段ならこの申し出は引き受けず黙って立ち去るところだが、彼女の言葉の中に気になる点があったのでつい声に出してしまった。リーブは都市開発部門の統括――つまり神羅の五つある部門の内の一部門のトップだった。呼び捨てで呼んでいるということは、ただ上司と部下の関係だったという訳ではなさそうだ、とヴィンセントは思った。歳の頃からいって同期だとか友人だとかそういったことだろうか。
「まあ、立ち話もなんだし。そのお店に行きましょう。リーブの話を訊きたいんでしょう」
 彼女は強引にヴィンセントの腕をつかみ、彼女が設計したというお店に向かってヴィンセントを引き摺るようにして歩き出した。

 彼女が設計したお店というのはこの前リーブと2人で行ったダイニングバーだった。確か、リーブはここのことを彼の秘書から聞いたと言っていたか。WRO本部の隊員の中で話題のお店なのかもしれない。
「何か食べたい物はある?とりあえず適当に食べ物を注文してしまってもいいかしら?」
 彼女は店員を呼ぶ。注文を取りに来た店員は彼女の顔を見て、少し驚いたような口調で言った。
「おお、レベッカじゃないか。君のおかげでこの店の評判は上々さ。今回は仕事でこの街に来たのかい?」
「ええ。この近くにあるWRO本部のリラクゼーションエリアの設計をWRO局長自ら依頼されて」
 彼女はいくつか食べ物を注文したあと最後に、ビールを、と言った。彼女はヴィンセントの方を見る。ヴィンセントは店員に、私もビールで、と言った。
「それで……貴方私に何か訊きたそうな顔をしていたけれど」
 ビールが運ばれ、乾杯をしたあと彼女は言った。
「何も」
 ヴィンセントは答える。少しの沈黙のあと彼女はこう切り出した。「リーブが神羅カンパニーの都市開発部門にいた事は知っているわよね。」ヴィンセントは頷く。
「彼は私のひとつ上の先輩で、システム設計の部署で働いていたの。私は都市の設計部の配属で……まあ、彼と私は都市開発部門の中でも違う部署で働いていた」
 彼女は一呼吸おく。
「それで、あるとき私が残業をしているとき必要になった書類を取りに設計部の資料室に行ったのね。そしたら、彼が資料室にいて。違う部署の資料室に、よ。機密事項が書かれた書類もあったから同じ都市開発部門内でも、違う部署の資料室に勝手に入ることは許されていなかった。彼は資料室に入ってきた私に対して何か言い訳をしようとしたのか、口を開こうとしたのだけど……」
 注文した料理が運ばれてきた。彼女は会話を一時中断する。彼女が一方的に喋っているだけなので会話とはいえないかもしれないが。
「口を開こうとしたのだけれど?」
 ヴィンセントは店員がテーブルを離れるとすかさず話の先を促した。彼女はそんなヴィンセントを見て笑いながら、
「口を開こうとしたところに、ちょうど上司が資料室に入ってきたの。彼の顔色が一瞬で変わったのがわかったわ。どうやら許可を得て立ち入ったのではなく、何か知られたらまずいことをしているのだと私は思った」
「……」
 ヴィンセントは目の前にある料理を口に運びながら黙って聞く。
「その上司っていうのが私が女だからか知らないけど、とにかく私のことを目の敵にするような態度を取っているやつで、その日の残業もそいつが他の気に入りの社員より倍多くの仕事を私に振り分けたための残業だったの。で、私は上司をからかってやろうと思った。リーブは私の彼氏で私が不甲斐ないばかりに仕事が終わらなくて手伝って貰っている、って上司に言った。良く内容は覚えていないけど、今日やった仕事をあげて、これらしか定時に終わらなかったんです……って付け加えた。もちろん、明らかにこれら"しか"ではない量の仕事だったけれど」
「リーブはそれを聞いて何か言ったのか」
「私がこの部署で働いていたとしたら、私は彼女の半分程しか定時までにこなせないでしょう。この部署で働いている人はとても優秀なのですね」
 ヴィンセントはそのときの様子を想像し、笑った。
「お前達は気が合いそうだな」
「ええ、私はそのとき心の中で爆笑してたわ。上司はリーブの言葉を聞いて決まりが悪かったのか、リーブが他の部署の資料室にいることは追求せずにそこを去った」
「リーブとそれから親しくなったのか」
 ヴィンセントは心の中で、呼び捨てで呼ぶくらいに、と付け加える。
「そうよ。ところで……貴方とリーブはどういう関係?」
「どういう関係、とは」
「何故貴方はWROの隊員になったの?見たところ、貴方が自ら進んで何かの団体に属するタイプに思えない。リーブに言いくるめられたのでしょう」
「……言いくるめられてはいないな」
 ヴィンセントは答えた。
「リーブと食事に行ったときに友人である私に何も報酬を払わず働かせてしまっているのは申し訳ないから、と言って契約書類を渡された。私も確かにそれは一理あると思ったからその書類サインにした。私がWROに入ったのは自分の意思だ」
「貴方の話ぶりからすると、WROに入隊する前に何度かリーブの依頼を無償で引き受けていたように見受けられるのだけど」
「そうだ」
「依頼者の方から報酬を払わしてくれって言われる程の仕事をタダで引き受けるなんて貴方変わっているのね」
 確かに、何故リーブからの依頼を引き受けたのだろう。カームで久しぶりにリーブと再開したときはカームが襲撃を受けていたため断れるような状況ではなかったから仕方なしに引き受けた。しかし、カオスを巡る一件があったあとのリーブからの依頼はどうだろうか。別に切羽詰まった状況ではなかったし、断ろうと思えば断れた。それに、契約隊員になる際に都合の良いときに依頼を引き受けてくれ、とリーブに言われたが、ヴィンセントは隊員になってからというものリーブからの頼みを断ったことはなかった。
「あいつと会うのが楽しみだから。リーブとは毎回仕事の報告のあと二人で食事に出かけるのだが、その時間を私は好ましく思っている」
 ヴィンセントはそう洩らす。
「それって、リーブから誘われるのかしら?」
「ああ」
「貴方の方から誘ったことは?」
 そういえば、ないな、とヴィンセントは答える。建築士はふうん、と頷いてから、携帯電話を取り出し、
「たまには貴方の方から誘ってみるのもいいのではないかしら。私のおすすめのお店教えてあげるから、連絡先を教えなさい」
 ヴィンセントはしぶしぶ彼女に携帯電話を取り出し、彼女は半ば強引にヴィンセントから携帯電話を受け取る。彼女がヴィンセントの連絡先を確認しているのを眺めながら、ふと昼間の件を思い出した。――彼女から解放されたら、この辺りには本来生息していないモンスターの群れと街道で遭遇したことをリーブにメールで報告しておくべきだな――ヴィンセントは空になったテーブルの上の皿に目をやり、いつ解放されるのだろうかといった意味のため息をついた。

4

 レベッカをWROに送り届けた日からちょうど三日後――つまりリーブが連休を明けて出勤する日に、ヴィンセントはリーブにWRO本部まで呼び出された。
 リーブは局長室の扉をノックしたヴィンセントを部屋に招き入れ、「先日は護衛の件、ありがとうございました。貴方に頼んで良かったです」と言いながら革張りのソファを勧める。
「モンスターの群れが街道に出現した件で何かあったか」
 ヴィンセントはソファに座るなり切り出した。
「ええ。私も気になったので調べていただいたのですが、」
 言いながら、ヴィンセントの向かいの一人がけのソファに座る。
「ジュノンエリアとの境にある山中で、とある植物の栽培所を発見しました。興奮剤の1種の原料なのですが……その興奮剤がミッドガルで使用・所持が禁止されていたものでして」
「なるほど。モンスターが山を下りるほどということは、かなり大規模な施設だったのか」
「そうです。その施設は隊員達の働きにより既に制圧済みなのですが、こういった違法薬物の原料の栽培施設には治安維持という点において、宜しくない組織が関わっていることが多いですからね。施設にいた者に関わっている薬物売買組織や、資金援助している者を聞き出したのです。少し手荒な手段をとってしまいましたが」
「休みだったのに悪かったな」
 ヴィンセントは少しすまなさそうに言った。
「いえ、こういったときのためにWROは存在するのですからね」
 気にするな、といった体でリーブは言った。
「で、聞き出した情報によると資金提供者の内の一人と今夜、薬物売買組織が接触するようです。接触場所はここ近くの街の料理屋。その薬物売買組織というのがミッドガル崩壊前にウォールマーケットにいた者達を中心としたメンバーから構成される組織でして、独自の法があったウォール・マーケット内ならともかく、そうでないところで取り引きをされると治安維持に関わりますので組織のメンバー制圧のため作戦を決行することにしたのです」
 それにルーファウスもその組織をマークしていたようですし、と付け加えながらリーブは執務机の上に丸めてあった紙を取り、ヴィンセントの前に広げた。
「これは取り引きが行われる料理屋の見取り図です。この部屋で行われると予測しています」
 厨房の隣の部屋を指さした。客用の出入口から見て一番奥にある部屋だ。
「作戦はこうです……まずA班は店に客を装って入店し、二階の客席へ。二階はどうやら宴会場になっているらしいので、団体客を装って席の予約済みです。B班、C班は近隣の店へ立てこもり事件が起きたため外へ出ないよう通達。D班は近隣道路の封鎖を行います。残るはE班、F班ですが、この二班が実行部隊です。E班はA班入店五分後に同じく客を装って入店。二階に他に客がいない場合は小籠包、いる場合は油爆蝦を頼む手筈になっていますので、運ばれていく料理で二階の状況を確認します。E班は準備出来次第、F班に合図。F班は合図を受けたら店に突入。一階の客を護衛する者と取り引き現場を押さえる者に別れ制圧」
 リーブは一呼吸おいて、「これが作戦の流れです。貴方にはE班を担当してもらいます」と言い、思い出したように、すみません貴方の返事をいただいていませんでしたね、と謝った。
「別に問題ない。これまでお前の頼みを断ってこなかったのに、ここで断わるわけないだろう」
「そうですか! 助かります」
 リーブは顔を輝かせて言った。
「ところでリーブ、一つ訊いておきたいのだが……油爆蝦とはなんだ?」
「海老を使った料理なのですが……ちょっと言葉では説明しづらいですね。まあでも大丈夫です。E班には
貴方の他に私もいるので」
「指揮官のお前が実行部隊に居ても良いのか……?」
 ヴィンセントは呆れながら言った。随分と前線に出たがりの指揮官もいたものである。
「店内で携帯電話で通話したら目立つでしょう。私でしたらケット・シーを使って外の部隊と連絡を取れますから怪しまれることもありませんし。万が一のことを考えて、でですよ」
 さて、と言いながらリーブはソファから立ち上がり、
「ヴィンセント、貴方その今着ている旅装以外に服は持っていますか?善良な一般市民を装って潜入しなければなりませんから、そういった感じの服装で来ていただきたいのですが」
「リーブ、私が一般市民が着るような服を持っていると思うか?」
 確かに、とリーブは思った。旅装束を着ていないヴィンセント――全く想像できない。
「でしたら、今から買いに行きましょうか」
「私には服を選ぶセンスがない。お前に選んで貰えると助かるのだが」
「私が選んでも良いのですか!」
 それはリーブにとって思いがけない言葉だった。楽しみやわ〜、とつい洩らす。
「かくいう私も若い人の流行はわからないので、無難なコーディネートになってしまうと思いますが。それでもよろしければ是非」
「ああ、頼む」
 リーブは頭の中で街にある服屋の場所を確認しながら、そういえば昼間にヴィンセントと出かけるのは初めてだ、と思った。

5

 一八時。夜の繁華街が賑わいを見せるにはまだ少しだけ早い時間。WROによる違法薬物売買組織員捕獲作戦は定刻通りに決行された。リーブとヴィンセント――つまりE班は、取り引きが行われるという店にA班が入ってからきっかり五分後に入店した。
 好きな席を選んで良いようだったので、リーブは壁際の店内が見渡せる位置にある席を選び座った。続けて向かい側にはヴィンセントが座る。
 ヴィンセントはリーブが服屋でこれはどうですか、と勧めた服を着ていた。赤い、カジュアルな襟のないシャツに麻のコート。ヴィンセントには赤が似合うと思ったし、シンプルなデザインの方が気に入ると思ったのでリーブはこれらを勧めた。いつも着ている旅装束のイメージと大きく変わってはいないが街にいそうな若者――そんな感じだ。
「こんな状況でなければアルコールを頼んで一杯やりたいところなのですが……仕方ありませんね」
 リーブは何にしますか、とヴィンセントの前にメニューを広げる。ヴィンセントは二階からオーダーを取り終えた店員が厨房に入って行くのを横目で確認しながら、メニューを見る。
「なんでもいいんだが……この日替わり定食にするか」
「では私も同じのを」
 リーブは手を挙げて店員を呼ぶ。ちょうど厨房から出てきた、水の入ったコップを載せたトレーを持った店員がやってくる。店員はコップをヴィンセントとリーブの目の前に置いた。リーブが二人分の注文を店員に伝えている間、ヴィンセントは取り引きが行われるとリーブが予想した部屋の扉の位置を確認した。頭の中でF班が店内に入ってきてからのシュミレーションをする。ちょうど部屋の手前には柱があるから、もし自分が部屋に辿り着くまでに敵が武器を構え攻撃態勢になったらあの柱の影に隠れて一旦様子を見た方がいいだろうか、それとも気にせず走り抜けてしまった方が良いだろうか。そう思考したあと店内をぐるりと見渡す。客は自分達の他に三組。その内一組は入口にごく近い位置におり、残りはヴィンセント達よりもさらに入口から奥の席にいる。幸いなことに一つ分のテーブルしか空けずにその二組が座っているため、客を守る側はF班が突入したあとはあの位置まで移動し、守るべきだろう。
 客を守る側とはリーブのことだった。ヴィンセントは取り引き現場を押さえる側。このことは事前に打ち合わせておいた。リーブはこのあと取るべき行動のシュミレーションはできているだろうか。
「注文したあとで言うのもあれですが、油爆蝦を頼んでも良かったかもしれませんね」
 リーブは水を一口飲む。ヴィンセントはリーブが話しかけてきたため、このあとのことを考えるのを一旦中断した。ヴィンセントも油爆蝦というものがどういった料理なのか気になってはいたが――おそらく、何を注文しても変わらないだろう。料理がくる前か、遅くとも食べ始めたあたりで突入作戦が開始されるだろうからだ。
「このあと……はお前の予定があいていないか。明日食べに行くのはどうだ?」
「貴方の方から食事に誘われるなんて珍しい。そんなに気になっていたんですか?」
「レベッカにたまには私の方から誘ってみてはと言われた」
「レベッカ、ですか?」
 リーブは少し考えてから、
「何か私のことを話していましたか」と訊いた。
「お前と初めて会ったときのことを」
「それだけ?」
「それだけだ」
 他には何かなかったのかと言いたげに訊かれた。何か知られてほしくない出来事がリーブと彼女の間にあったのだろうか。
「ああ、」
 そういえば、というふうにヴィンセントは言う。
「私の方からリーブを誘ってみてはと言われたあと、連絡先を交換した」
「連絡先……ね」
 リーブは少し不機嫌そうに言った。ヴィンセントはレベッカと話したときはリーブと彼女は仲が良かったのだと感じていたが、リーブの方は彼女とは仲の良い友人だとは思っていないのだと認識を改めることにした。
「彼女が無理矢理私の電話を奪い取って自分のアドレスを入力したんだ。私の方から教えてと言ったわけではないし、連絡を取ることは今後ないだろうさ」
「へえ.....そうですか」
 リーブはヴィンセントと会話をしながら、厨房から店員が出てくるのを目の端に捉えた。トレーの上には小籠包が載っている。店員はそのまま二階に上がって行く。リーブはケット・シーと回線を繋げた。どうやら外ではとっくに準備が完了し、待機中らしい。リーブは目の前にあるグラスをテーブルにコンコンコンと三回打ち付けた。
 それを聞き、ヴィンセントはリーブの方を見つめ、小さく頷いたあと最終確認のためもう一度店内を見渡してから、同じくグラスをコンコンコンと打ち付けた。リーブはすかさずケット・シーを通じF班に突入の合図をする。
 F班は合図を聞き、料理屋の正面入口から突入した。ヴィンセントとリーブは入口が開く音を聞くと同時に椅子から立ち上がる。リーブは入口から見て奥にいる二組の客の方へ向かう。ヴィンセントは事前の打ち合わせ通り五人いるF班のうち二人が取り引きが行われる部屋の方へ向かっているのを確認しつつ、自分も部屋の方へ走る。道中、コートの裏に隠しておいたケルベロスを取り出しながら。
 料理屋の店員達は突然入ってきたWRO隊員に驚き、一瞬遅れて攻撃態勢に入った。一人がエプロンのポケットから取り出したナイフをリーブに投げつけようとするのがヴィンセントの目に入った。
「リーブ!!」
 ヴィンセントは怒鳴った。それを聞き、リーブは咄嗟に腰を屈める。そしてちょうど目に入った、呆然としている目の前の一般客に向かって言った。
「テーブルの下に隠れて!」
 ナイフを投げた店員は後ろからきたWRO隊員に取り押さえられる。ヴィンセントはそれを見、再び走り出した。ヴィンセントが扉の前に辿り着くのと同時に、客席での騒ぎに気がついたのか目の前の扉が開く。ヴィンセントは部屋から出てきた男を問答無用でケルベロスのグリップで殴りつけた。昏倒した男は無視し、ケルベロスを構え、部屋にいた者達を威嚇する。
 部屋にはテーブルが一つあり、その周りを五人の銃を持った男が取り囲んでいた。テーブルには大将らしき男とその向かいの椅子には――ヴィンセントは驚愕した。この前護衛し、一緒に食事にも行った建築士――レベッカが座っていたのである。

6

 ヴィンセントはレベッカがいた事にとても驚いたが、顔には出さないようにした。まだ作戦は終了していない。目の前には敵。隙を見せてはいけない。
 テーブルの周りの銃を持った男達は突然取り引き現場に乱入してきた男に銃口を向ける。敵だと認識したからだ。ヴィンセントは男達が引き金を引く前にケルベロスを続けざまに三回発砲した。三人仕留める。残りの二人は――「ヴィンセントさん伏せて!」F班のWRO隊員の声が聞こえた。ヴィンセントはその声に従い、素早く身を伏せる。ヴィンセントのいたすぐ真後ろの位置から発砲音。ヴィンセントに追いついた二人のWRO隊員は残りの二人に弾を命中させた。手下が全て殺られたのを認識したのか、リーダーの男は部屋にある窓の方へ向かう。逃げ出す気なのだろうか。ヴィンセントはそう思いながら、男の右脚と左脚に向かって撃つ。命中し、男はその場に倒れ込んだ。ヴィンセントは男に素早く近づき、とどめに顔を思いっきり殴りつけた。男は動かなくなる。
 レベッカはヴィンセントが部屋に乱入してきたときから寸分も動かず、男達が一瞬でやられる様子を終始無表情で眺めていた。そして、男達が全員動かなくなるのが確認できると、すっとその場に立ち上がり両手を挙げた。抵抗しない意思を示すためだ。
 ヴィンセントは何も言わなかった。ただ、リーブはどう思うのだろうか、とだけ思った。今日はここで資金提供者と会合が開かれていたらしい。男達の様子を見るに――その資金提供者とは十中八九レベッカのことだろう。
 ヴィンセントの後ろにいた二人のWRO隊員はレベッカを連行した。作戦は成功した、終わったのだ。ヴィンセントも部屋から出ていく隊員達のあとを追って部屋を出た。

 リーブは料理屋のホールでWRO隊員に店の店員達を本部へ連行するよう指示を出していたが、ヴィンセント達が部屋から出てくるのが見えるとそちらの方へ駆け寄った。
「あー、その女性は本部へ連行しなくても大丈夫だ。代わりに宿泊先まで送ってあげてくれないか?」
 何故、と言った顔で2人のWRO隊員は上司の方を見る。
「彼女は私が神羅にいた頃の知り合いでね。最近久しぶりに連絡を取る機会があり、そのとき相談を受けたんだ、ウォール・マーケット上がりの組織が取り引きを持ちかけているとね。で、話を詳しく訊くと、どうやらWROへの資金提供者にマークされていた組織で、資金提供者には貸しをつくっておくべきだと思ったから彼女に取り引きを受けてもらい情報を流してくれないか、と頼んだんだ」
「そうだったんですか。了解です、局長」
 敬礼し、隊員はレベッカを送り届けるため料理屋の出入り口に向かう。それを見、ヴィンセントは、「リーブ、私はそんなこと初めて聞いたんだが?」とリーブに詰め寄った。
「まあ、言っていなかったですからね」
 言いながらリーブも出入り口に向かう。そのあとをヴィンセントも追った。
「リーブ!!」
 料理屋を出るなりそう呼び止められた。レベッカだ。
「ちょっとこちらに来なさい」
 言いながら、裏路地の方へリーブを引っ張って行く。ヴィンセントも着いていき、少し離れた位置から二人の様子を観察することにした。まだレベッカの件について納得できていなかったからだ。
「貴方、どういうつもりなの?私に負い目があるから、貴方の方から別れを切り出させてしまったから、私のことを庇ったのかしら?」
 レベッカは早口でまくし立てた。他の隊員に聞かれないよう声のボリュームは控えめだったが、タークス時代に鍛えたヴィンセントの耳は会話の内容を聞き取った。どうやら初めて聞いたのはヴィンセントだけではないらしい。
「いいえ、違いますよ」
 リーブはきっぱりと言った。
「貴女と初めて資料室で会ったとき、貴女が私を庇ってくれたからです。あのとき誤魔化してくれなかったら、当時の都市開発部門の統括の不正の証拠を私が発見する前に証拠を隠蔽されてしまっていたかもしれません。あのとき資料室に入ってきた貴女の上司は統括派でしたからね。私は借りを返しただけですよ」
 レベッカは黙った。
「さあ、ホテルに戻りなさい。まあ、貴女が今回のことを借りだと思うのなら、素晴らしいリラクゼーションエリアを設計することで返してくださいな」
 リーブはレベッカの背中を押した。リーブとレベッカの会話が終わったことが確認できると、ヴィンセントは彼女と入れ替わりでリーブに近寄った。
「リーブ、お前らしくないな」
「何がですか?」
 リーブはヴィンセントの方を向いた。
「お前が私情を挟むなんてな」
「私情?」
 心外だ、というふうにリーブは言う。
「私情は挟んでいないですよ。彼女にも貴方にも作戦の全てを話していなかった、というだけ。結果、敵に作戦終了まで怪しまれることはなかったじゃないですか。それに、彼女から今回の敵に関する情報を手に入れたことは確かですよ」
「ほう」
 ヴィンセントは腕を組んでリーブに続きを促す。
「彼女、昔からセキュリティに関していい加減なんですよ。メールアプリケーションを開くのにパスワード入力はいらない設定にしているし、PCのロック解除のパスワードが"1234567890"」
「まさか」
 ヴィンセントは一つの可能性を思いついた。三日前、レベッカを打ち合わせのために引き渡したのはリーブの秘書だったではないか。
「ふふ。秘書にこのことを伝えて、彼女がPCを置いて部屋から出たときにメールをチェックしてもらったんです。山中の薬物栽培施設にいた者から、新しい資金提供者、レベッカ・ブランと明日取り引きを行うっていう情報を聞いていたので彼女が黒なのはわかっていたんです。彼女のメールボックスには今回の件の原因となった組織とのやり取りが残っていました。そして、このメモリスティックに該当のメールを保存してもらい、私はそれを読んでこの料理屋の見取り図を作成しました。建物の内部の様子がわかるのとわからないのでは雲泥の差ですからね。見取り図がなければ今回の作戦は成功しなかった、つまり彼女がいなければ成功しなかった」
 そういい、リーブは取り出したメモリスティックを放り投げ、サンダーを唱えた。メモリスティックがショートする。
「これで、証拠はなくなりました。彼女が組織と連絡を取っていた記録がないのですから、今回の件で彼女を逮捕することは誰にもできないでしょう」
 食えない男だ、とヴィンセントはふっ、と笑う。
「彼女が他の組織……もちろん犯罪行為をしている組織に資金提供をする可能性は考えなかったのか」
 ヴィンセントはリーブのとった行動を非難するように言った。それを聞き、リーブはああ、と昔を思い出すように言う。
「彼女が他の犯罪組織に加担することは今後ないでしょう。何故ですかって? 私もよくわからないのですが、昔から彼女の考えることはわかるのですよ」

7

 違法薬物売買組織の一件から約一ヶ月が過ぎた。リーブとヴィンセントはひと月前に行ったダイニングバーで酒を酌み交わしていた。ヴィンセントもリーブもこのお店をとても気に入っていた。内装だけにこだわった店かと思いきや料理も美味しいし、飲み物の種類も多い。カクテルのアルコール度数も安居酒屋とは違って、アルコールに対する割ものが多くて薄すぎることがなかったのも良かった。
「レベッカはジュノンに帰ったのか」
 ヴィンセントはリーブに訊いた。
「ええ。ちょうど昨日に」
 リーブは目の前にあるグラスに口をつけ、中身を飲み干した。
「次は何を注文しましょうか」言いつつ、メニューを手に取る。
「素晴らしいできだとWRO内で評判なんです。設計図を元にイメージを作成したのですが、確かに素晴らしかった」
 リーブはメニューのページをめくりながら言った。「ヴィンセント、貴方も何か頼みますか?」
「では……先程頼んだものをもう一杯貰おうか」
 リーブが手を挙げ店員を呼び、やってきた店員に注文を伝える。
「ここ、内装も料理もお酒も全てこだわっていますよね。人気なのも頷けます」
 そう言い、リーブは辺りを見渡した。店内はほぼ満席である。
「WROの局長が護衛もつけずにこんなに人の多い場所にいても良いのか?」
「護衛ならここにいるじゃないですか」
 リーブはヴィンセントを指さした。ヴィンセントはふっと笑う。
「お前の護衛なら好きなだけしてやろう」
 そこへちょうど注文した飲み物がやってきた。会話を中断する。
「それはどういう意味ですか?」
 リーブは純粋な疑問からそう尋ねた。
「どうやら私はお前と今日のように二人で過ごす時間が気に入っているらしい。お前の護衛をしたあと、こういった時間を作ってくれるなら何回でも護衛をやるさ」
「なるほど」と言いつつリーブはグラスに口をつける。「なるほどね」そしてふうっと息を吐き、
「私も貴方と過ごすのは楽しいですよ。もし、もしもですよ、貴方と私が結婚していたら……その結婚生活は長く続くでしょうね。そう思います」
「レベッカとの結婚生活よりも?」
 会話が途切れる。リーブはヴィンセントの方を見た。そして、この前の作戦で料理屋を出たあとの様子を思い出し、「あのとき、私と彼女の会話を聞いていたのですね。……まあ、はい。そう思いますよ」とリーブは答えた。
 しばらく無言が続く。ヴィンセントはこのあとのことを考えていた。リーブは自分とヴィンセントのグラスを見、空になっているのを確認し、「さて、混んできたし、結構長居してしまいましたし一旦会計してこの店は出ますかね。今日は私が払いますよ。この前は貴方にお世話になったので」と言いながら、リーブは伝票を手に取り席から立ち上がろうとする。
「リーブ」
 そう言い、ヴィンセントはリーブを引き止めた。リーブは立ち上がる動作を一時中断し、ヴィンセントの次の言葉を待つ。
「私は給料をお前から貰っているのだし、そういう気は使わなくても良い。……もし、お前が奢るというのならこのあと私の部屋に来ないか?いい酒があるんだ……お前に奢らせたままだと悪いのでな」
 ヴィンセントはリーブからは少し目線を外して言った。リーブはにっこり微笑んで、「いいですね。是非。この前食べた油爆蝦が美味しかったのでつまみにテイクアウトしませんか?」
「好きにしろ」
ヴィンセントは言葉ではそう言ったが楽しそうな表情をしていた。引き続き二人で過ごせることになって嬉しいのだろう、とリーブは思った。
「貴方の部屋なんて行くの初めてだからどんな部屋か楽しみです。今度私の家にも来ませんか?」
「ああ、それもいいな。次にこういった機会があったときはここで乾杯したあと二件目としてお前の家に行けると嬉しい」
 ヴィンセントはそう言った。
 会計を済ませ、二人は夜の繁華街を並んで歩く。時刻は二十一時。夜はまだこれからだ。

あとがき

ⅮⅭ後、リーブとヴィンセントの関係がこんな感じだったらいいなと思った妄想の結果です。ブロマンス風味。 リーブとヴィンセントはできていないけどお互いを特別に思っている、そんな関係です。


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